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障害年金の請求を応援する社会保険労務士のブログ

障害年金の仕事が大好きな東京都町田市の社会保険労務士が、誤解だらけの障害年金のことを暑苦しく語ります。

「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(案)に対する障害年金実践研究会の意見

障害年金(全般)

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所属している「障害年金実践研究会」(東京都社会保険労務士会の自主研究グループ)で、代表の安部敬太さんを中心に、障害基礎年金認定の地域差問題と「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(案)に対して意見を出しました。

長文ですが、お読みいただければ幸いです。

「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(案)に対する意見
       

 東京都社会保険労務士会自主研究会 障害年金実践研究会
 代表 社会保険労務士 安部敬太


8月11日、「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(案)」に関して、厚労省によりパブリックコメントの意見募集が公示されました。障害年金請求代理を業とする社会保険労務士として、障害年金制度がより公正な制度になることに少しでも寄与したいと考える当会の意見を述べます。

Ⅰ 精神・知的障害の障害基礎年金認定の地域差問題について

 

精神障害の障害基礎年金認定における地域差は是正されなければなりません。

しかし、その解決方法として厚労省が出してきた案は、精神診断書の「日常生活能力の判定」(食事摂取、清潔保持、対人関係等の7項目の4段階の評価、以下「判定」という)と「日常生活能力の程度」(全般的な5段階評価、以下「程度」という)の評価のされ方で等級認定の目安を作り、それにより事務官がだいたいの等級のふるい分けをして、その後に認定医が総合評価をして、認定するというのが等級判定ガイドラインです。

このガイドラインがこのまま決められれば、認定の公正化とは逆の方向に向かう可能性があります。

【1】「等級の目安」の問題点

1. 「判定」・「程度」の評価のされ方だけが問題となる

等級判定ガイドラインで新たに導入されるのは、「等級の目安」です。

精神障害の障害基礎年金認定おいて、都道府県ごとに、「判定」・「程度」のチェックのされ方による2級のラインというのが事実上ありましたが、厚労省および年金機構は公式には診断書全体で判断するとしていました。

しかし、目安が示されれば、2級のラインが公的に示されることで、「判定」・「程度」のどこにチェックが入るかが最大の問題となります。

かつ、どういう状態の場合にどこにチェックを入れるかというモノサシは作成医ごとにバラバラですから、同様な障害の状態でも2級となったり、不該当となったりという不公正は残ります。

また、この目安により、まず事務官が2級該当かどうかのふるい分けをしますから、目安に達しない診断書を認定医が他の総合判定項目で2級に救うことは困難となり、これまで2級とされていたケースでも2級不該当となる可能性が相当出てくると思われます。

2. 各等級の状態像から検討すべき

(1) 地域差の原因分析の必要性

どうして認定の大きな地域差が生じたのかについての議論はほとんどなされていませんし、その文章化は一切なされていません。

検討会の委員9名のうち医師は8名で、そのうち認定医は6名ですが、どういう基準で選ばれたのかもわからず、認定医全体からしてもほんの一握りの者の意見だけで、何の原因分析もないまま、その対策が決められようとしています。まずは、原因の分析こそが必要です。

私たちは、等級認定の地域差は、等級を認定する医師それぞれによって、各等級の障害の状態像の捉え方がバラバラであったことにより生じたものと考えています。

 

(2) 障害年金認定基準の基本的事項の抜本的見直し

基本的事項の「障害の程度の基本」にある例示では、長期入院している人または家から出られない人しか2級とは認定されないように読めます。

「労働により収入を得ることができない程度」ということは、作業所で月数千円の収入が得られているだけでも2級でなくなり、作業所に行けるというだけで「活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」には当たらなくなります。

最も認定が厳しい都道府県の医師は、この「基本」により2級かどうかを認定していた可能性があります。


(3) 精神認定基準の障害ごとの認定基準の見直し

精神の障害年金認定基準の障害ごと(「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」、「気分(感情)障害」、「症状性を含む器質性精神障害」、「てんかん」、「知的障害」、「発達障害」)の認定基準では、医学的な症状や障害が中心となって記載されています。

障害を社会的障壁とする障害者基本法に則って、障害を社会的な能力の低下の程度として、抜本的な書き換えを行うべきです。

3. 判定・程度のチェックを等級認定に反映させるなら

(1)「等級の目安」による認定の厳格化はゆるされない

これまで受給できていた障害者が、今回の目安の決定で、2級不該当となり、支給停止とされてしまうことは絶対に避けなければなりません。

第6回検討会で決められた目安では、「程度」が(3)で「判定」が平均2.5~2.9の場合に、「2級または3級」とされました。

障害基礎年金では87%が2級と認定されていた、この評価レベルが2級でなくなると多数の支給停止が出ます。第5回の原案のとおり「2級」とすべきです。

 

(2)「日常生活能力の判定」の点数化の重点配分

「日常生活能力の判定」を点数化する場合は、7項目全てを同一の点数とするのではなく、精神障害において、その能力の低下が社会的能力全般に大きく影響を与えると思われる「他人と意志伝達および対人関係」等は、他の項目に比して高い点数を配分すべきです。

また、認定基準の障害ごとに、その障害に特徴的な「日常生活能力の判定」の項目に点数を高く配分すべきです。


(3)作成医のためのマニュアルの作成

「日常生活能力の判定」(診断書ウの2)の7項目4段階の各評価について、どういう具体的な場合に、たとえば「助言や指導があればできる」なのかを詳細に明確化して、診断書を作成する医師のためのマニュアルを作成すべきです。


(4) 診断書における例示の書き直し

「日常生活能力の判定」の7項目や「日常生活能力の程度」の5段階判定の各例示を日常生活能力・労働能力としてしっかりと書き直すことも必要です。

【2】総合評価の問題点

認定医の判断を標準化する上で、総合評価の内容を定めることは必要ではあります。

しかし、この場合にも各等級の障害の状態像が明確となっていないために、このままでは認定の不公正はさらに深刻化していく可能性があります。たとえば、現在の案は以下のような問題があります。

 

(1)「現在の病状又は病態像」の「精神障害」の気分障害のところに「入院を要する水準の状態が長期間持続したり、そのような状態を頻繁に繰り返している場合は2級以上の可能性を検討する」とありますが、この記載だけだと入院を要する水準が2級の条件だと受け取られる可能性があります。

「入院を要する水準の状態が長期間持続したり、日常生活における身のまわりのことにも多くの援助が必要であったり」等、「入院を要する水準」だけが2級でないことは明確にすべきです。


(2)「生活環境」の共通事項に「独居であっても、日常的に家族の援助や福祉サービスを受けることによって生活ができている場合は、それらの支援の状況を踏まえて、2級の可能性を検討する」とありますが、これでは「家族の援助や福祉サービスを受けている」ことが2級の条件であると受け取られる可能性があります。

様々な事情で家族の援助や福祉サービスが受けられない障害者も多く、障害年金受給ができれば年金により福祉サービスを利用したいと考える者も多いことを踏まえ、「日常的に家族の援助や福祉サービスを受けることによって生活ができている場合(援助や福祉サービスが必要だが受けられていない状態を含む)」とすべきです。また援助者は家族に限られるわけではないので、「家族や友人等」とすべきです。


(3)就労状況についは、「現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、…仕事場で受けている援助の内容…等を十分確認」することを徹底し、就労していることだけをもって2級不該当としないよう、認定部署に強く指示すべきです。

また、一般企業での就労については、「多くの時間、見守りや声掛けが必要であったり、多くの時間、相談や質問ができる支援者の配置を要する場合には2級の可能性を検討する」とすべきです。

Ⅱ その他、精神に限らず、障害年金の認定の公正化のために行うべきこと

 

  1. 各認定医や各認定に関わる事務官の障害の状態像に関する捉え方の違いにより、不公正な認定が生じないようにするため、認定医・事務官の会議の頻繁な開催、認定事例の提示、認定マニュアルの作成、(再)審査請求や裁判で原処分が取り消された事例の認定医・事務官へのフィードバックと全ての認定医・事務官への周知等により、常に認定の標準化、公正化に努めること。
  2. 等級認定理由、不支給決定理由を請求者にわかるように文章化して交付すること。
  3. 認定医を増やすこと。
  4. 障害者基本法にある障害とは社会的障壁であるという定めや障害者権利条約に沿って、障害者の所得保障制度である障害年金の等級を認定するための「ものさし」はどうあるべきなのか、これまでの日常生活能力というものでいいのかどうかを抜本的に検討すること。
  5. 就労との関係では、心臓等の内部障害ではデスクワークもできない状態が2級の条件となっている一方で、聴力、視力、肢体等の外部障害については就労との関係は問題とされていないこと、原則として支給対象からの除外されている神経症(ICD-10のF4)や人格障害、精神症状がないてんかん、検査数値などで重症度を明確に示すことができない難病や末期前のがん等、傷病や障害について認定の困難さに差があることについて、公平性を保つ方向で是正すること。
  6. 医師の作成した書類だけにより、医師だけが等級認定する認定システムを改め、医師以外の障害年金専門の調査員、認定官を養成し、それらが障害年金認定に直接関わる認定システムとし、本人の陳述の機会を保障し、実地調査(居宅や職場)を原則として行うようにすること。

 

Ⅲ 社会保険労務士の関わり

 

厚労省検討会では障害者に支給されるべき年金の一部が、社労士の報酬となるのはいかがなものかという意見が出ました。

しかし、障害年金の請求の複雑さは社会保険の中でも群を抜き、かつ、年金機構の窓口職員でさえも障害年金に関する相談への正確で適切な対応ができずに誤った説明や誘導が生じ、障害者や家族だけで行った場合には、受給権が得られないことが多くあります。

社会保険法に関する不服申立てのうち、老齢年金と遺族年金を合せても7%に過ぎない中、障害年金は約3分の2を占めていることからもそれは明らかです。

この現実に対して、年金の請求代理を業務として行うことを国より付託された唯一の国家資格者である社労士が障害年金請求に関わることで、本人、家族ならびに施設、作業場および職場等関係者のヒアリング、関連する社会保険法令の公正な適用、厚労省通知および年金機構マニュアル等による法運用の適正化、医師への照会、カルテの開示と読み解き、医学的見解の調査等を行い、正当で公正な裁定や(再)審査請求の結果を引き出して行きます。

私たちが手を差し伸べなければ、支給されるべきなのに支給されない事案がまだまだ埋もれています。

その方たちに出会い、専門家として、よりよき針路を描き、受給権の取得という目的に向かって、障害によって生き難い状況に置かれている方たちとともに歩む、それが社労士に課せられた大きな社会的使命の一つだと私たちは考えています。

 パブリックコメント(意見公募)が始まっています

認定の地域差に関する専門家検討会の資料や議事録は、下記からご覧いただけます。

www.mhlw.go.jp

この検討会で決まった等級判定ガイドライン(案)は、パブリックコメント(意見公募)を経て、再度、検討会にかけられることになっていますので、たくさんの人が意見をいうことで、少し良い方向にいくかもしれません。

パブリックコメントは、下記サイトの意見提出フォーム、郵送、FAXで、誰でも送ることができます。

期限は9月10日(木)です。

今回のガイドラインは、明らかな改悪です。ぜひ声をあげていきましょう。

search.e-gov.go.jp